個別送迎式

教習所の送迎バスについて語り続けてきたわけであるが、一応今回で最後である(予定)

今回は『個別送迎式』についてだ。

名称そのままの意味だ。

従来の『路線バス方式』『予約式』はあらかじめ教習所が走行ルートを決めて、お客さんにはそのルート上で乗り降りしてもらうことになる。

個別送迎式はタクシーのように教習生であるお客さんの指定の場所(基本的には自宅)まで送迎するシステムだ。



なぜこのような方式が生み出されたのかというと様々な背景がある。

まずは既存の路線バス方式ではある程度の時間で一周のコースを走行してこなければならないために、あまり遠い場所にまでは行けない、その微妙に届かないエリアをカバーするためだ。個別送迎式にしてピンポイントでそこに向かえば多くの時間を使わずにそこに向かうことができる。

次に本来は他校に通うようなエリアに住んでいるお客さんを何とか自校に入校してもらうための営業の策としてだ。「自宅まで送迎しますからどうかうちに入校してください、」というわけだ。

さらにはこんな理由もある。高校生が秋から冬にかけて入校した場合、学校が終わってから教習所に通うことがほとんどだ。その場合、高校の授業が終わってから自力で教習所まで向かってくると夕方を過ぎて夜になってしまう。教習所で受けられる教習は一時限か多くても二時限になってしまうのだ。これでは効率よく卒業させられないし2月3月までに多くの在校生を抱えてしまう。教習所は超繁忙期である2月と3月までにはできるだけ在校生を減らしておきたいものなのだ。

そのためには11月からの時期に入校した高校生には少しでも多くの教習をこなしてもらう必要がある。そこで駅や高校まで送迎バスで直接迎えに行き、(自転車ごと積み込む場合も多い)帰りは自宅まで送るのだ。たった一時限を多く受講してもらうための涙ぐましい努力だ。



ではこの方式にはどのようなメリットとデメリットがあるのだろうか?

お客さんにとってこの方式は実はデメリットはあまりない、というよりうまく活用できればメリットばかりだ。

家まで送ってくれるのだから何の文句もないだろう。自宅を知られたくないのであれば違う場所をしてして降ろしてもらえばよい。

では教習所職員にとってこの方式はどうなのだろう?

じつはこれ、大変なデメリットがいくつか存在する。

この方式は当然のことながらバスの運行は事前の予約によって行われる。

教習所によって違いはあるだろうが基本的には前日までの場合がほとんどであろう。

送迎エリアは教習所ごとに決められているわけだが、遠くても教習所から半径10kmが限度であろう。

もちろんこれを越える送迎エリアを定めている教習所も存在するが担当スタッフはたまったものではない。

さて前日までの予約に応じて担当スタッフがバス運行の計画を立てるわけだが、当然この業務は自動車学校の教習業務が終了してからになる。送り迎えする教習生が同じ方向にいてくれればよいがバラバラの方向に点在していればバスを運転するスタッフはそれに応じて複数必要になる。しかしそれでも最小限の人数で運行でき、さらに運行するスタッフの負担があまりないように配慮する。こんなことを前日の夜中にほぼ毎日担当スタッフはやらされているのだ。

私の同期の教習所職員はこの業務に忙殺され8時半には教習所としての業務は終わっているのに毎日退社が11時をはるかに過ぎていた。教習所業務が終了した後のことなので残業代は出ないことがほとんどだ。この同期はやはり離職した。すると別のスタッフが担当することになりやはり退職していくことになる。完全に負のスパイラルに陥ってしまう。

次に実際にバスを運転するスタッフも前日に連絡を受けてその運行を実施する。

日中のバス運行については出社してからの確認でよいが一時限目に間に合わせる早朝のバスについてはバス運行の有無によって出社時間が変わってしまう。担当スタッフは自分の出社時間が前日の夜、しかも場合によってはかなり遅い時間まで確定しないのだ。これでは落ち着いて帰宅後を過ごすことはできない。また教習終了後の送り専用のバスも運行の有無が当日、出勤するまで分からないので家族と過ごす時間は確保することは難しい。

お客さんの便利のために企業が努力することは必要な姿勢である。

しかしそれによって社員が退職してしまうようでは意味がない。そしてそれは教習内容という本当のサービス内容がおろそかになってしまうだけだ。本末転倒だ。

さらにこの方式は他校のエリアを奪い合う要素も強いために競合校同士が互いに消耗し合っているだけになってしまうのだ。これは競争ではない、業界全体を衰退させるだけの自滅だ。

各教習所がお互いに自校のエリアのお客さんを奪われ、隣の教習所のエリアのお客さんを値引きして遠いところを無理やり送迎して奪おうとする。残るのは疲弊しきった職員だけだ。転職できる人間はさっさとしていく。残るのはどこにも行けない人材だけだ。こうして業界全体が荒廃するのだ。

この個別送迎式を採用する教習所は実際にも離職率が高い。

それはここまで述べてきた事情もあるが、これらの社員の努力に経営者が誠実に応えないためだ。

教習所スタッフは単に自分の生活を経営者一族に捧げるだけの奴隷と化す。

皆さんも個別送迎を利用して教習所に通う場合はこうした事情を推察してほしい。

そこにいる疲弊したスタッフたちの姿を、、、



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