先走る悪意

これまで話してきたように教習所における技能教習は基本的に毎回指導員が変わる随意制(指名制)と同じ指導員が担当する担当制とがある。

他にも進め方にも種類がある。それは教習生の習得状況に応じて内容を進めていく方式と習得状況に関係なく1時間目は外周、2時間目は交差点、4時間目は坂というように決まったカリキュラムをこなす方式である。

昔は後者を採用する教習所が多かった。こちらの方が理に適っているからだ。外周が回れない人は交差点はできないし。交差点でまともに左折ができていないのにクランクコースなど笑いにもならない。ふつうに発進ができない人に坂道発進など教習ではない、ただの虐待だ。

昔の教習所はこの方式を採用する関係で、じっくりと教習生を育てていたので最短時限で各段階を修了する者はすくなかった気がする。しかし昨今では前者の方式(決まったカリキュラム)を採用する教習所が多い。

この方式では先ほど述べたように何も出来ていないのに教習生は次々に新たな内容を押し付けられるためになかなかに苦痛が伴う。正直に言えば指導員も同じように苦痛を味わう。指導員も人間、相手のためにもならなくてまともに教えることができないような状況は辛い。しかし結局はこの方式で何もできないまま卒業させているのが今日の教習所の現実なのだ。やはり何事も基本が大切。確実に基礎を習得させてからでないと本当のレベルアップは難しい。基本ができていないのに次の内容に挑戦させても教習生は自分が何ができていないのか理解できず全体が滅茶苦茶な運転操作とは呼べないような状態の教習生ばかりになってしまう。



さてこのように、決まったカリキュラムの方式でさらに随意制(指名制)が組み合わされると。ある悪意が誕生する。

それが先走り指導員だ。どういうことかと言うと例えば交差点の練習の時間にも拘らずS字やクランクコースをやらせてしまったりする指導員だ。一見大して問題ないように思えるこの行為が実は大変な悪意を秘めている。そして同僚の指導員に対して失礼な仕打ちをしているのだ。

具体的に語っていこう。仮にその時間が外周をまわることを始める最初の時間だったとする。この時間はアクセル、ブレーキを活用しスローインファストアウトの走行を実践する。これによって速度に対して必要なブレーキ操作の基本を学んでいく。さらにはカーブにおいては行き先の視線の取り方、およびハンドルの操作方法の基本を身に付ける。運転の最も基礎となる部分で反復練習が必要だ。これが崩れれば他のことをやっても全て微妙にしか仕上がらない。一見その教習生が外周を無難に走行しているように見えてもプロである指導員は良くない部分を間然すべく指摘して反復練習させなければならない。そうでなければ次につながっていかないからだ。しかし先走り指導員は違う。しっかりした方法でできていなくても外見上、カーブが曲がれていれば違うことをやりだしてしまうのだ。「上手にできてるからS字、クランク行こう」という具合だ。

もちろんこの段階でS字やクランクコースなどできるわけがない。隣からハンドル操作を指示して無理やり通過させる。これはもちろん何の意味もない。そして上手にできたと言われまたおだてに乗せ褒める。



ではこの先走り指導員の行為の何が問題なのだろうか?

まずはその時間で習得しなければならない内容をないがしろにして違うことをやらせている点だ。運転もスポーツも基本が重要である。バスケで言えばドリブルができないのにダンクを教えるようなものだ。それは練習ではないただの遊びだ、しかも指導員のだ。一度このような指導員に当たった教習生は他の指導員が外周の走行の仕方に立ち戻って指導しようとしてももう受け付けない。ドリブルよりダンクを教えてくれた指導員に好感を持ってしまっているからだ。まともに指導しようものなら苦情かアンケートに悪く書かれるのが関の山だ。こうなったら指導員もまともに相手にはしない。ただ50分という時間が過ぎることを待つだけだ。こうして教習生は基本ができないのに自分はうまいと勘違いして誰にもそれを気づかせてもらえないまま痛い目に会う。

次に実際にS字、クランクコースを実施する時間を担当する指導員が困ってしまうのだ。S字、クランクコースの意義は「速度調整」「車両感覚」「視線、内輪差を含め誘導方法」の習得にある。これを説明しようにも『もうやりました。』と教習生から言われてしまう。では実際にやらせてみるともちろんではあるが全然できない。なぜなら基本を習得するハズの時間にそれをせず、S字クランクコースに入れられ無理やり指示されて通らされているわけで本人には何の実力も備わっていないからだ。すると教習生は『あの時はできたのに。この先生は教え方が分かりにくい』と、まともなハズの指導員が悪者扱いされてしまう。私も何度も嫌な思いをした。こういった場合にはまともに教えに行かないのが現代の教習所における処世術だ。隣から「はいハンドルもっと右、、戻して。次は左にもっと回して」と言っていればよいのだ。本人のためにならなくてもその時間だけ形だけ通過させておけば悪く思われないのだ。あとは雑談でもしておけば完璧だ。



先走り指導員の罪は重い。しかしなぜこのような愚かなことをしてしまうのだろか?

理由は2つ。

1つは自分の人気稼ぎだ。外周をある程度周れるようになってくると教習生も飽きてくる。そんなときに本物の指導員はさらに支持を加えて完全なものを目指すのだがこれでは教習生のウケは良くない。先走り指導員は分かりやすく自分をアピールするために前述したような愚行に走るのだ。すべては自分のために。

もう1つは、その指導員に本当に正しい知識と指導力がない場合だ。外周走行でも単に周っていればよいと本気で思っているバカ指導員が存在してしまっているのも悲しい現実なのだ。だから外周走行でもブレーキ時期がおかしくてもカーブの走行位置が悪くてもバカ指導員には分からないし、指導のしようがない。間が持たない。だから他のことをやらせようとしてしまう。

先走り指導員の悪意によってまともな指導員がイヤな思いをしているのが今日の教習所の日常だ。

こういう指導員は基本はバカなので『S字も通らせたよ』などと自慢げに言っていたりするから面白い。

皆さんの教習所にも何人かはいるはずだから気を付けてほしい。

そして先走り指導員に遭遇したら決してそれを好意的に感じてはいけない、あなたは人気取りのために騙されているのだ!



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